(事例2)特別養護老人ホーム

【要約】

 特別養護老人ホームの入居者が発熱。すぐにかかりつけの病院でPCR検査し、3名の陽性者判明。保健所に連絡。すぐに保健所職員来園。近隣の病院からも、感染症対応指導看護師が派遣される。職員へ防護服の着方、ゾーニングなどの今後の方向性への指導がある。次の日、全入居者・職員のPCR検査を実施。結果として、入居者 13名、職員5名の陽性者判明にてクラスター確認。感染経路不明。職員は自宅待機、入居者は入院までの間は施設で療養。再度、近隣の病院から感染症対応指導看護師が派遣され、施設内の環境面の確認、ゾーニングなどの徹底指導があった。陽性者はゾーニングにより施設内ホールで隔離して完全防護で対応。1週間後に、現状把握のためのPCR検査を再実施し、追加で入居者1名、職員3名の陽性者判明。

 地域の病院、保健所からの丁寧なアドバイスを頂戴するなど、連携がスムーズにできたこと、「入居者のために」と職員みんなで一丸となって対応できたことで、収束までの22日間を乗り切ることができた。この経験から、予防の徹底、体調の変化への意識を高くし、日常的な感染拡大の防止に努めている。

1.拠点概要

特別養護老人ホーム(80床)・短期入所生活介護(8床)

2.陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • SPO2(動脈血酸素飽和度)の定期測定も必要である
    無症状の方でも、SPO2の値が低い方がおられ、急激に悪くなられたケースもある
  • リアルタイムPCR検査は有効である
    今回1週間後に再度陽性者が判明。感染拡大防止のためにも陽性者・陰性者の頻回なスクリーニングが必要

3.陽性者対応の経験から変更したこと・はじめたこと

  • 全入居者へのSPO2の定期測定
  • 液体ハンドソープから泡ハンドソープへ変更

4.新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

項目 内容
 陽性者数  入居者18名、職員7名
濃厚接触者 18名※内、職員感染者8名
検査実施 PCR検査 2回実施
感染源・感染経路 不明
事業所外からの応援

他事業所への感染拡大を防止するため、あえて他事業所からの応援はしないようにした

他事業所からの差し入れがあった

5.新型コロナ感染者発生状況と対応の経緯

# 日程 対応内容
 1日目

入居者 3名陽性判明。

保健所・近隣病院の感染症対応指導看護師感による現状の確認及び改善指導

保健所の指示により、濃厚接触者の確認

2 2日目

久留米市より物資が届く

保健所の指示により、施設勤務者と入所者全員のPCR検査

3 3日目

筑後地区老施協より物資が届く

入居者4名、職員4名の陽性確認。職員は、隔離施設に移動

保健所指示により、陽性者は入院ベッドが確保できるまで施設療養

4 4日目

入居者6名、職員1名の陽性判明

複数医療機関との入院調整(保健所)

保健所からのベッド空床の連絡を受け、各医療機関へ搬送協力

5 10日目

現状把握のためのPCR検査を再度実施

入居者1名、職員3名の陽性確認

これまで同様に、感染症対策と入院調整の継続

6  

陽性入院者の随時退院。宿泊所隔離の職員の復帰。

7 22日目

保健所による観察期間終了

6.対応の体制

  • 陽性の入居者の介護看護対応の職員を固定
  • 陰性の職員(パート含)が仕事を休むことなく協力を得ることができ対応することができた。
  • 他事業所の応援も検討したが、感染拡大を防ぐため、陰性の職員で対応した。
  • 保健所、近隣の病院との連携を得ることができていた。
  • 夜勤者の固定。陽性判明フロア職員の出入口を別途固定。
  • 仕事着への着替え、マスクの交換、フェイスシールドとマスク、消毒液の着用
    (ケア前消毒→ケアの実施→ケア後消毒)

7.情報の収集・把握・共有

  • 入院予定の入居者やその他の入居者の状態を把握し、異常や変化はその都度、保健所や感染症対応指導看護師に報告を行う事で共通理解し、指示を仰ぎながら対応。

8.情報の周知・発信

  • 陽性判明から観察終了まで、施設内での取り組みや現在の様子など、1週間に1回、文書にまとめご報告として入居者及びご家族、関係各所に配布させて頂いた。
  • 状況報告、不安や疑問は、保健所や専門看護師に相談。その内容は、職員に申し送りを含めて徹底した。
  • 感染状況等の情報は、毎日、関係職員に対して報道を行い情報提供を行った。

9・入居者への支援と対応

  • 陽性者・陰性者はゾーニングして、陽性者だけをホールに隔離して対応した。
  • 入居者のPCR検査を行うにあたり、家族に電話して承認を得て実施。結果の報告。
  • 普段見慣れない防護服姿での対応であったが、特に不安が強くなられることもなく落ち着いてお過ごし頂くことができた。

10.職員の状況とフォロー

  • 休憩時間が陽性者搬送の準備と重なるなど、感染症対応を優先して行動するため、午前中のお茶の時間をあえて設けるなど、いつもよりもゆとりのある勤務体制を組んだ。ケアの前後には休憩時間を確保してバーンアウト防止に努めた。
  • 目の前の事1つ1つに対応し、入居者への声掛け、楽しく笑える話などの会話に努める
    (笑うことで免疫力アップになると共通理解し、1日1回笑おうと声掛けを行う)

11.医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 陽性者判明当日から連携することができた。
  • 陽性者の入院に際し、搬送協力を行う事でスムーズな入院につなげた。
  • 発熱の入居者の受診は自力搬送を行ったが、搬送に関しても職員を固定した。その為、搬送のたびに車の目張りと消毒、撤去を行った。

12.関係事業所・委託先等との連携・調整

  • 委託事業所にも情報提供と、共通対応に努めた(厨房など)
  • 業者等に関しては、情報を正しく伝え、搬入搬出等も感染症対策の上、対応した。
  • リネンの業者様にご協力いただき、使い捨てのシーツ類の提供及び感染リネン類の取り扱い説明の指導を受けた。

13.感染防護資材等の調達

  • 久留米市からマスク・消毒液、フェイスシールドなど感染症対策物品の配布があった。不足する場合は補充していただけるとのお話もいただいたが、充足した。
  • 筑後地区老施協より、感染症備品バックをご提供いただいた。
  • 保健所からもN95マスクの支給やパルスオキシメータのレンタルがあった。
  • 保健所より専用除菌シートの配布があり、車等の除菌拭き掃除に重宝した。
  • 職員全員に簡易のパルスオキシメータを支給した。
  • 備蓄は法人全体で保有していたが、簡易エプロン、マスクについては追加購入。
  • 防護服(頭から足まで)フルセットでの対応が必要で長袖エプロンは備蓄対応。
  • その他として、発生を想定した備品の備蓄(2~3週間耐久)
  • 使い捨ての食器の購入。
  • 机上設置用のプラスチックシールドの追加購入

14.事業支出・収入等への影響

  • 物品等については、かかり増し補助金の活用により備蓄があった
  • 久留米市より補助金の活用についてアドバイスをいただき、職員の手当や感染症対応物品の購入に充てることができた
  • 特養については、新規入居の停止、併設の事業所や短期入所の部分において、感染の状況に応じて、休業日を設けたり、受け入れを制限したりの対応を行った。その結果として、多くのご利用者にご迷惑をおかけする反面、収入の大幅減となった。

15.風評被害と対応

(職員の感想や思い、対応として)

  • 複数のお電話でのご感想ご意見をいただくことがあった。ご指摘頂く内容もありましたが、励ましのお言葉をご家族や関係の方々から頂くことが多く、勇気をいただいた。
  • これまで勉強会は実施していたが、実際に陽性が判明すると、理解していた知識に不安を感じ、強い不安感を持つ職員がいたため、保健所及び指導看護師からのアドバイスを受け、実働を含むコロナ対応への正しい知識理解の勉強会を行った。
  • 近所の人から、「どうなの?」と聞かれたくなかった。車が家にあると、どうして車があるの?という近所の目が合った。(施設勤務と近所の方はご存じなので)
  • 仕事に来ていた方が、自分の体調も含めて安心だった。
  • 濃厚接触者は、自宅と職場の往復で、入居者のお世話に取り組むことになったため、家庭での過ごし方について共通理解を行った
    • 家庭内でもマスクの着用
    • できるだけ部屋を分ける
    • トイレ使用後は消毒をする
    • 入浴は最後に行う
    • 食事は時間差にて摂る
    • 人の食べ残しは食べない
    • タオルは共用しない
    • 髪、首にウイルスが付着しやすい
    • 外出は通勤のみ。買い物は短時間でまとめて行う(必要に迫られた場合)
    • 出退勤時には更衣を行う
    • 「まず消毒、1行為、1消毒」
    • 洗面所を使用後は、拭き上げる …など

    ※子どもの長期休業の期間と重なり、子どもに寂しい思いをさせてしまった