(事例1)社会福祉法人 拓く

【要約】

 通所サービス(就労継続支援B型)の利用者家族の陽性発覚にはじまり、翌日には事業所を閉所し、関係する全利用者、職員に抗原検査を実施。その結果、利用者、職員、職員家族の計4名の陽性者を確認。それ以上の感染拡大防止のため、事業所を1週間閉所、グループホームの利用者は陰性であったが念のために隔離対応した。また、在宅で陽性者の対応にあたる家庭への感染防止のためにグッズ一式を提供、防護服の脱着のアドバイスを実施。

 保健所の対応では間に合わないと判断。早い段階で法人独自で抗原検査を行い陽性者と陰性者の切り分け(スクリーニング)を行なった。それにより陽性者及びその関係者への適切な対策ができたため感染拡大することなく、1週間後の再検査では全員陰性を確認し、円滑に開所することができた。

 この経験から、コロナ感染時の物資提供やゾーニングのノウハウなどをまとめることができた。現在は、体調の変化への意識を高くし、日常的な感染拡大の防止に努めている。

1.拠点概要

夢工房

(御井町)

事業 生活介護、就労継続支援B型
構造 2階建て 
定員 20名

御井あんだんて

(御井町)

事業 グループホーム
構造 2階建て
定員 5名

2.陽性者対応の経験からの学び・教訓

  • 利用者・職員の体調不良の情報をいち早く掴み、感染拡大を防止する
    • 陽性者の中には、数日前から鼻水がでたり、微熱があるなど変調があった人もいた。本人は黄砂などいつものアレルギーだと思っていた。
    • 熱だけではなく、少しでも体調の変化があったら本人から申し出てもらう。自己表出の少ない利用者についてはこまめにバイタルチェックや体調管理をするようにしている。
  • 抗原検査等で早急に感染者を特定し、感染拡大を防止する
    • 保健所の対応を待っては検査がすぐに実施されず、その間に感染拡大させてしまう可能性もある。自費による抗原検査(定量)等のすぐに結果が分かる方法で陽性者と陰性者をスクリーニング(切り分ける)することは感染拡大防止に有効である。
  • 事業者だけではなく、保護者や他事業所からの声掛けや応援は大きな支えになる
    • 保護者の方からの温かな声掛けや、差し入れなどは、現場でストレスにさらされながら介護にあたる職員、利用者にとって精神的に大きな支えになった。

3.陽性者対応の経験から変更したこと・はじめたこと

  • 感染症への意識が向上し、現場自ら施設内でのさらなる感染防止の取組みを進めている。
  • 経験から得られた知見は他事業所にとっても有益であると考えられるため、ホームページで経験やノウハウをまとめて公開するようにした。

4.新型コロナ陽性者等発生と対応の概要

項目 内容
陽性者数 4名(職員1名、利用者2名、職員家族1名)
濃厚接触者 なし
検査実施

法人自費で2回の抗原検査(定量)を実施。

1回:利用者23名、職員33名(夢工房)

2回:利用者72名、職員93名(全事業所)

感染源・感染経路 不明
発生・収束と見なす日 6月21日~6月27日
事業所外からの応援

・法人本部からの後方支援

・利用者家族からグループホームへ食事やおやつの提供

・他事業所からフェースシールド、防護服、手袋などの支援物資の提供

5.新型コロナ感染者発生状況と対応の経緯

# 日程 対応内容
1

21日

(水)

 利用者の同居家族に陽性者が発覚。(22時に連絡あり)
2

22日

(木)

事業所を閉鎖し、55名(メンバー23名、職員26名、職員家族6名)に抗原検査(定量)を実施。

その結果、メンバー2名、職員1名、職員家族1名が陽性と確認。

速やかに保健所と所管課へ連絡。 行動歴の洗い出し

3

23日

(金)

保健所からの連絡を受け、陽性者は病院を受診し、改めてPCR検査を受け陽性が確定。
4

24日

(土)

保健所からの施設調査で、日頃からの対策や活動状況、接触状況などを精査した結果、「全員が濃厚接触者ではなく接触者」、「全員行動制限はなく、閉所する必要はなく通常開所をしてもよい」との回答。
5

25日

(日)

朝方に対策会議(オンライン)で開所までの対応について協議。

念のため、26日(月)に再度全員抗原検査(定量)を実施し、その結果を受けて開所日を決定。

6

26日

(月)

「夢工房」をはじめ、「出会いのポレポレ」等、法人の全事業所のメンバー、職員の合計161名の抗原検査(定量)を実施(当日、検査できなかったメンバー、職員へは随時実施)。

全員の陰性を確認。それを受け、対策会議で「夢工房」は全館消毒、環境整備のため1日おいて水曜日から開所を決定。

7

27日

(火)

全館消毒およびゾーニングなどの環境設定など実施。
8

28日

(水)

事業所の開所

6.対応の体制

  • 施設の責任者が現場での指揮をとり、法人本部では、統括本部長を中心に後方支援にあたった。
  • グループホームは、職員3名で24時間の支援にローテーションであたった。
  • 夢工房の利用者については、在宅ワークに切替え、毎日職員が電話入れをして対応にあたった。

7.情報の収集・把握・共有

  •  毎朝、理事長・統括本部長・本部長・責任者・現場職員がLINEを活用してオンラインでミーティングを実施。前日の状況の報告、感染者の状況、当日にやることの確認を実施した。
  • 利用者へは現場職員より毎日電話をして状況の把握を行った。

8.情報の周知・発信

  • 感染者が確認された翌日から随時保護者・職員向けにメール等を活用してお知らせを発行した。(4月22日、25日)
  • 収束後、ホームページにコロナ感染の発生から収束までの経過報告を掲載した。(4月30日)

9・利用者・入居者への支援と対応

 

発生時の連絡と反応:

  • 利用者全員に現場職員が手分けして状況説明した。
  • 事業所を閉所しても、在宅ワークとして、電話で毎日のワークを提供し、在宅でのサービス提供に務めた。

期間中のグループホームの様子:

  •  グループホームのゾーニングは、外から直接入れる部屋を着替えや防護服等の資材を置くグリーンゾーンと、その部屋以外をレッドゾーンと区切って、感染防止対応に努めた。
  • 期間中はずっとグループホームでの隔離対応となるため、ストレスがかからないように、日中は車で人のいないところへドライブに出かけたり、家族からご飯やおやつの提供を受けたり、少しホッとできるような対応をした。
  • 対応職員は常にフェースシールド、手袋、防護服を着用してケアにあたる。特にそれによって体調不良等になることはなかった。
  • 精神的・身体的に不安定になるなど特になく、概ね普段通りに過ごすことはできた。

10.職員の状況とフォロー

 

発生時の連絡と反応

  • 施設内に陽性者が出たという知らせを聞いて、多少の動揺もあったが、大きな混乱はみられなかった。

期間中のグループホームの様子

  • 発生確認の翌日に全利用者・職員への抗原検査を実施し、陰性と判明したことで不安を軽減することができた。

11.医療機関、保健所・行政との連携・調整

  • 陽性者確認後、すぐに保健所と久留米市障害福祉課へ報告。
  • 保健所:久留米市内で感染拡大していたため保健所もすぐに対応することはできなかったようで、3日後にようやく施設調査がはじまった。
    • 事業所がすること
      • 接触者リストの作成(1週間程度)(いつ、誰と、どんな接触?)
    • 保健所がすること
      • 濃厚接触者の切り分け ⇒ 今回、マスク等の感染防止をしていたため「全員接触者対応」に留まった
      • 濃厚接触者への連絡、検査調整
      • 陽性者の療養先の調整
  • 久留米市障害福祉課:4月23日に経過報告を行う。その際に防護服一式の提供を受ける。
  • 産業医:対応の経過報告及びアドバイスを随時いただく。

12.関係事業所・委託先等との連携・調整

  • 通所サービス事業の施設内で別企業のキッチン業務を請け負っており、陰性の職員1名以外は休みとして請負先には協力的に対応していただいた。

13.感染防護資材等の調達

  • フェースシールド、ビニールエプロン、マスク、手袋等の備蓄はあったが、使い捨て食器、蓋つきのゴミ箱、ゴミ袋、パルスオキシメーターは備蓄はなく改めて購入した。

14.事業支出・収入等への影響

支出:

  • 抗原検査の費用が約134万円かかったが、補助金により負担はなかった。
  • 不足していた防護資材の購入にかかる費用。

収入:

  • 利用者が自宅待機になったとしてもコロナ禍の特例で在宅ワークとして対応することが可能であったことで、通所サービスの収入減は最小限に抑えられている。再開後は利用者は減ることなく収入は戻っている。

15.風評被害と対応

  • コロナ陽性者発生による事業所への問い合わせなどなかった。
  • 直接的な風評被害よりも、「関係者が風評被害にあわないか」ということへの心配は大きかった。